物流倉庫に求められる火災対策を消防法を交え解説
投稿日:2022.01.26
更新日:2022.03.17
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実際に、大阪や東京などの大都市圏では超大型倉庫の需要が伸びていると言われています。ただ、続々と建設されている大型物流倉庫ですが、最新設備が整っている割に、万一火災が発生した場合の被害規模がとんでもなく大きなものになってしまうという点が問題視されています。皆さんも記憶に新しいと思いますが、2021年11月に発生した大阪市此花区の大型物流倉庫の火災では、1階の段ボールから出火した火が、6階建て建物延べ5万6000㎡の約7割に相当する3万8700㎡を焼き、なんと丸5日を超えて燃え続けるほど大規模な倉庫火災となってしまいました。
市消防局では、今回の倉庫火災は「窓や出入り口などの開口部が少ない建物の構造が妨げとなった」と指摘しており、多くの物流倉庫に取り入れられている設計に問題があると指摘しています。さまざまな商品を保管する物流倉庫では、商品の温度変化や日焼けを避けるため、換気システムを導入し窓を少なめにする設計が行われるのですが、大規模火災が発生した際には、この構造が消火や救助の妨げになるとされています。
今回は、大型化が進む物流倉庫について、どのような火災対策が必要になるのかを解説していきます。
日本国内における火災予防の法体系について
まずはじめに、日本国内における火災予防に関する法体系を簡単に整理しておきます。総務省消防庁のwebサイトでは以下のように説明されています。
防火対象物の火災予防に係る規定は、関係者などの権利・義務に直接影響を及ぼすものであることから、消防法において基本的事項を定め、技術基準や行政手続に係る細目などについては、政省令・市町村条例に委任する体系となっています。
引用:総務省消防庁のwebサイトより
日本での火災予防に関する法体系は、主に消防法、各市町村による火災予防条例、建築基準法および都市計画法から構成されています。消防法において基本的事項を定め、技術基準や行政手続に係る細目などについては、政省令・市町村条例に委任する体系となっています。
なお、建築基準法や都市計画法との関係については以下のように説明されていますので頭に入れておきましょう。
建築基準法(単体規定)においては、建築物の構造・設備・材料の面から、出火防止、火煙の拡大防止、火災時の構造強度確保、主たる動線確保(避難、消防活動)などが図られています。
概括的には、建築基準法により建築物全般に係る物的措置がカバーされ、消防法により人的措置及び消防特有の設備等に係る物的措置がカバーされています。
都市計画法及び建築基準法(集団規定)においては、用途地域の指定が行われるとともに、これに応じたレイアウト、建築構造・材料、事業内容の制限などが規定されており、広域的な観点からの延焼防止などが図られています。
引用:総務省消防庁のwebサイトより
具体的にどんな火災対策が必要になる?
それでは、大型化が進んでいる物流倉庫などにおいて、どのような火災対策が求められるのかについても考えてみましょう。物流倉庫などでの火災予防に関しては、万一火災が発生した時、適切な通報が行えるのか、また従業員が初期消火を的確に行えるよう、社内体制を整えておくことも非常に重要です。この部分に関しては、以前弊社が運営しているファクトイズム内で解説していますので、以下の記事をご参照ください。
ここでは、建物に関する火災予防を中心にご紹介します。
関連記事:Fact ism「大規模倉庫における『火災の教訓』をご紹介します!」
消防法における火災予防について
消防法 第二章 火災の予防 第五条を以下に引用しておきます。
第五条 消防長又は消防署長は、防火対象物の位置、構造、設備又は管理の状況について、火災の予防に危険であると認める場合、消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合、火災が発生したならば人命に危険であると認める場合その他火災の予防上必要があると認める場合には、権原を有する関係者(特に緊急の必要があると認める場合においては、関係者及び工事の請負人又は現場管理者)に対し、当該防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止又は中止その他の必要な措置をなすべきことを命ずることができる。ただし、建築物その他の工作物で、それが他の法令により建築、増築、改築又は移築の許可又は認可を受け、その後事情の変更していないものについては、この限りでない。
② 第三条第四項の規定は、前項の規定により必要な措置を命じた場合について準用する。
③ 消防長又は消防署長は、第一項の規定による命令をした場合においては、標識の設置その他総務省令で定める方法により、その旨を公示しなければならない。
④ 前項の標識は、第一項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所に設置することができる。この場合においては、同項の規定による命令に係る防火対象物又は当該防火対象物のある場所の所有者、管理者又は占有者は、当該標識の設置を拒み、又は妨げてはならない。
引用:e-Gov|消防法
冒頭で少し触れた、大阪市此花区の倉庫火災では、「窓や出入り口などの開口部が少ない建物の構造」が消火活動長期化の要因と指摘されています。消防法では、上記のように定められており、消防活動をする際にスムーズな消火活動をおこなうために、消火活動時に妨げとなる貨物や資材などの移動を命ずることができるとしています。
この部分から分かるように、消火栓の周辺や非常用侵入口の周辺、防火シャッターの直下などにおいて、パレットなどの物流資材や製品在庫、機材などを仮置きすることは厳禁です。
また、物流倉庫のような大規模施設では、人命救助およびスムーズな避難に有効な誘導灯に関しても、消防法施行令で定められています。
2 前項に規定するもののほか、誘導灯及び誘導標識の設置及び維持に関する技術上の基準は、次のとおりとする。
一 避難口誘導灯は、避難口である旨を表示した緑色の灯火とし、防火対象物又はその部分の避難口に、避難上有効なものとなるように設けること。
二 通路誘導灯は、避難の方向を明示した緑色の灯火とし、防火対象物又はその部分の廊下、階段、通路その他避難上の設備がある場所に、避難上有効なものとなるように設けること。ただし、階段に設けるものにあつては、避難の方向を明示したものとすることを要しない。
三 客席誘導灯は、客席に、総務省令で定めるところにより計つた客席の照度が〇・二ルクス以上となるように設けること
引用:e-Gov|消防法施行令
上述したように、日本国内の火災予防に関する法体系では「消防法により人的措置及び消防特有の設備等に係る物的措置がカバー」だれるとされています。このほかにもスプリンクラーなどの消防設備に関して消防法施行令で規定されているので確認しておきましょう。
建物の火災予防について
物流センターにおける火災予防に係る取り組みでは、防火区画や非常用進入口が基本となると言えます。防火区画については、建築基準法施行令の条文を紹介しておきます。
(防火区画)
第百十二条 延べ面積(スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のものを設けた部分の床面積の二分の一に相当する床面積を除く。以下この条において同じ。)が千五百平方メートルを超えるものは、床面積の合計(スプリンクラー設備、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のものを設けた部分の床面積の二分の一に相当する床面積を除く。以下この条において同じ。)千五百平方メートル以内ごとに一時間準耐火基準に適合する準耐火構造の床若しくは壁又は特定防火設備(第百九条に規定する防火設備であつて、これに通常の火災による火熱が加えられた場合に、加熱開始後一時間当該加熱面以外の面に火炎を出さないものとして、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。以下同じ。)で区画しなければならない。
引用:e-Gov|建築基準法施行令
近年、物流倉庫などは極めて大規模化しており、1500㎡を優に超す大規模物流センターが当たり前のようになっています。そのため、そういった物流施設では、1,500㎡以内ごとに、準耐火構造の床若しくは壁または特定防火設備で区画されることが求められると覚えておいてください。
次に非常用進入口に関する部分ですが、建築基準法施行令で以下のように定められています。
第百二十六条の七 前条の非常用の進入口は、次の各号に定める構造としなければならない。
一 進入口は、道又は道に通ずる幅員四メートル以上の通路その他の空地に面する各階の外壁面に設けること。
二 進入口の間隔は、四十メートル以下であること。
三 進入口の幅、高さ及び下端の床面からの高さが、それぞれ、七十五センチメートル以上、一・二メートル以上及び八十センチメートル以下であること。
四 進入口は、外部から開放し、又は破壊して室内に進入できる構造とすること。
五 進入口には、奥行き一メートル以上、長さ四メートル以上のバルコニーを設けること。
六 進入口又はその近くに、外部から見やすい方法で赤色灯の標識を掲示し、及び非常用の進入口である旨を赤色で表示すること。
七 前各号に定めるもののほか、国土交通大臣が非常用の進入口としての機能を確保するために必要があると認めて定める基準に適合する構造とすること。
引用:e-Gov|建築基準法施行令
このように大規模物流倉庫の建設時は、進入口の周辺において、ゆとりがある進入経路を確保する必要があります。
実際に、昨年発生した大阪市此花区の倉庫火災後には、5万㎡を超える大規模倉庫において市消防局が緊急の立ち入り検査を行い「階段や通路などの避難経路や、防火道・防火区画におけるシャッターなどの管理が徹底しているかを確認する」としています。このほかにも、倉庫火災を防止するため、消防訓練の励行を要請するとしています。
まとめ
今回は、大規模化が進んでいる物流倉庫における火災予防に関する基礎知識をご紹介してきました。大規模化が進んでいる倉庫では、薬品や医療機器といった燃えやすい収容物がたくさん保管されている施設も多いのですが、そういった商品の中には温度変化や日焼けによって品質低下を起こすような物も多く、換気システムに頼って窓を少なくする設計を取り入れることが多くなっています。
倉庫は、顧客の手元に商品が届くまで一時的に保管しておく場所ですので、「製品の品質を維持する」と言うことが必要不可欠なため、こういった設計が取り入れられることが多いわけです。しかし、物流倉庫での火災予防に着目した場合、こういった取り組みが『裏目』に出てしまっているのではないかという指摘がなされるようになっており、現実に大阪市此花区の物流倉庫では、倉庫の約7割を焼いてしまうような大規模火災に発展してしまっています。
この記事では、物流倉庫に求められる基本的な火災予防の考え方をご紹介していますが、日本国内での火災予防に関する法体系は、さまざまな法律・条例が複雑に絡み合っていますので、一般の方が全てを理解するのはかなり難しい問題だと言えるでしょう。これから、複数拠点を大規模倉庫に集約したいなどと言う要望を持っている企業も多いと思いますが、保管効率や作業効率だけを考えるのではなく、従業員の命を守る火災予防に関してもしっかりと検討する必要があると考えてください。まずは、大規模倉庫の建設実績が多い専門業者に相談することが第一歩だと考えましょう。
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