物流業界の「2024年問題」とは?労働時間の上限規制への対策が始まっている!
投稿日:2022.03.30
更新日:2022.04.13
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新型コロナウイルス感染症の拡大以後、巣ごもり需要の増大により、EC市場の勢いはさらに加速していると言われています。しかし、その一方で、ネット通販の利用率が高まる中、物流業界は人手不足を原因とした長時間労働などの労働環境の悪化や従業員の離職など、さまざまな問題が発生しています。そのような中、2024年より、政府主導で実施される働き方改革では、労働時間の短縮を始めとしたさまざまな変更が加えられることになっています。
特に労働時間に上限が設定されるとなると、長距離トラック輸送のドライバーなどへは非常に大きな影響が生じると考えられます。そこでこの記事では、2024年に施行される法律により、物流業界で何か変わるのか、またどんな影響があるのかについて解説しておきます。
Contents
物流業界で注目されている『2024年問題』について
それではまず、『2024年問題』が運送・物流業界でじわじわ注目度が高くなっている理由から簡単に解説していきましょう。
冒頭でご紹介したように、2024年問題は、働き方改革関連法によって、2024年4月1日以降、「自動車運転業務における時間外労働時間の上限規制が適用される」ことによって、運送・物流業界に生じる諸問題を指しています。
働き方改革関連法に伴う「時間外労働の上限規制」については、大企業では2019年4月より、中小企業では2020年4月から適用されているのですが、物流業界や建設業界など、一部の業種では、急な是正が難しいと判断され、2024年までは猶予期間とされていたわけです。物流業界の企業は、当然、2024年に向けてさまざまな準備を行っています。しかし、コロナ問題によりさらに貨物量が増加し、長時間労働問題がなかなか改善されない状況の中、いよいよ法令の施行が迫ってきていることで、ここにきて『2024年問題』として話題にあがっているわけです。
具体的な変更については、「トラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限される」などで、罰則付きの上限規制となっています。そして、物流業界では、この法令がスタートした場合、「企業の売上、利益減少」「ドライバーの収入減少⇒離職」「荷主側も運賃上昇などの負担が生じる」など、さまざまな問題が指摘されています。
関連:Fact ism「残業時間上限規制とは?2020年4月に向けて中小企業がおさえておきたいポイント」
参考資料:時間外労働の上限規制わかりやすい解説
2024年4月以降、残業時間に上限規制が
それでは、2024年4月1日以降、物流業界などでも適用される「時間外労働の上限規制」について、もう少し詳しくご紹介しておきましょう。上述したように、働き方改革関連法による「時間外労働の上限規制」は、多くの業界で既に適用がスタートしています。その内容は、「時間外労働時間の上限は原則として月45時間、年360時間に制限される」と言うものです。時間外労働については、法律で上限が定められ、これを超える残業ができなくなります。
画像出典:厚生労働省特設サイトより
なお、労使間で合意があった場合でも、時間外労働に関しては、以下の制限が適用されます。
- 年720時間以内
- 月100時間未満(休日労働を含む)
- 2〜6ヶ月平均で80時間以内(休日労働を含む)
- 月45時間を超える月は6ヶ月まで
ちなみに、前述の通り、多くの業種では、2020年4月に時間外労働の上限規制が始まっています。ただ、以下の業種に関しては、急な是正が難しいと判断されたことから、2024年までの5年間を猶予期間として与えられています。
画像出典:時間外労働の上限規制わかりやすい解説
上記の猶予期間が設けられていることから、物流業界のトラックドライバーなどに関しては、2024年3月までは時間外労働の上限規制が適用されていません。しかし、2024年4月以降は、
- 特別条項付き36協定を締結する場合の年間の時間外労働の上限が年960時間となります。
- 時間外労働と休⽇労働の合計について、
・⽉100時間未満
・2〜6か⽉平均80時間以内
とする規制は適用されません。 - 時間外労働が⽉45時間を超えることができるのは年6か⽉までとする規制は適用されません。
上記の条件を加えたうえで、「時間外労働の上限規制」が適用されることになります。なお、自動車運転業務に関しては、「年間の時間外労働の上限が年960時間(特別条項付き36協定を締結する場合)」となっており、他業種よりも240時間も多く残業が可能とされています。さらに、「⽉/100時間未満」「2〜6か⽉平均80時間以内」「時間外労働が⽉45時間を超えることが年6か⽉まで」といった規制は適用されないと決まっています。要は、年間の時間外労働が960時間を超えなければ、月に100時間を超える、数カ月平均で80時間を超えても問題ないということです。
2024年4月以降、「同一労働・同一賃金」が適用
働き方改革関連法の施行にともない「同一労働・同一賃金」についても、2024年4月以降は適用対象となります。これについても、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から適用が始まっています。
「同一労働・同一賃金」の制度詳細については、弊社が運営しているFact ism内で解説していますので、詳しい内容は以下の記事をご参照ください。要は、正社員や非正規雇用労働者といった、雇用形態に関係なく、同じ職場で同じ仕事内容に従事するのであれば、同一の賃金を支払わなければならないという考え方です。
物流業界で考えた場合、例えば「無事故手当、皆勤手当、作業手当、家族手当」などを支給する場合、正規・非正規に関わらず支給しなければならないという考えになるので、各種手当についての見直しが必要になります。
参照:Fact ism「『同一労働同一賃金』とは?企業がおさえておきたいポイントをご紹介!」
2023年4月以降、「月60時間超の時間外労働の割増賃金引上げ」が適用
このポイントについては、上で紹介した2つの変更とは異なり、『2023年4月』から適用されるので注意してください。
現在、大企業においては月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金は「50%」となっています。その一方、中小企業では「25%」となっています。これが、2023年4月以降は、法改正により中小企業でも割増賃金の割合が50%に引き上げられると決まっています。
近年、運送・物流業界では、貨物量の増加に伴い、長時間労働が課題になっているとされていますが、この法改正が適用された場合、運送・物流会社の人件費が大幅に増加することになる可能性があるため、十分に注意しなければいけません。
参考資料:割増賃金に関する分かりやすい説明はコチラ
物流業界の対策について
ここまでは、ここ最近、大手メディアなどでも頻繁に取り上げられている物流業界における2024年問題の背景についてご紹介してきました。簡単に言うと、猶予期間を与えられていた働き方改革関連法案がいよいよ2024年4月以降、物流業界にも適用されることで、さまざまな問題が生じてしまう…と心配されているわけです。例えば、長期労働が問題視されている物流業界で、時間外労働の割増賃金引上げとなれば、人件費が大幅に増加してしまうことになります。
そもそも物流業界のビジネスモデルは、人の労働が売り上げに直結する労働集約型産業ですので、人が動かなければ売り上げがついてこないという側面もあるわけです。それなのに、「ドライバーの時間外労働時間に上限が設けられる」などとなると、会社全体の業務量が減少して、売上が減少してしまう可能性があります。それなのに、前述のような割増賃金の引き上げがあれば、「労働量が減少したのに、人件費はそこまで削減できない…」などといった結果になる可能性もあります。さらに、会社を運営するための固定費は減少しないことから、利益が大幅に減ってしまう危険があると言われています。
なお、2024年問題は、何も物流企業にだけ影響があるのではなく、トラックドライバーは「残業ができなくなることで収入が減ってしまう…」といった点に不安を感じる方が多いです。また、荷主企業についても、物流企業が「売上・利益の減少分を、運賃UPでカバーする」という動きが予想できますので、物流にかけるコストが増大してしまうというリスクが生じています。
このように、物流業界の2024年問題は、さまざまな人々に大きな影響を与えると考えられていることから、今からでも準備が必要と騒がれているわけです。具体的な対策としては、以下のような物があります。
- ITの活用
現在、物流業界でも積極的に取り組まれているのが、ITの活用です。例えば、トラックの予約受付システムを導入し荷待ち時間を大幅に削減できたという事例があります。他にも、車両管理システムで、トラックの稼働率向上を目指すなど、IT技術の導入により、生産性を向上させ、労働時間を削減するという対策が急がれています。 - 労働環境を改善し、新たな人材を確保
2024年4月以降は、労働時間に上限が設定されることから、一人当たりの売り上げはどうしても減少してしまうことになるでしょう。そのため、今まで通りの人員で会社を回すとなれば、全体の売り上げや利益は確実に減少すると考えられています。こういったことから、物流企業の多くは、より多くのトラックドライバーの確保に躍起になっています。具体的には、「物流業界はブラック業界」と言うイメージを払しょくするため、労働環境や雇用条件を改善したり、柔軟な働き方を認めるような動きになっています。例えば、住宅補助や育休制度など、福利厚生を充実させ、新たな人材の確保を急いでいる企業は多いです。
このように、物流業界は、低賃金や長時間労働といった業界特有の問題を解消し、若い人材を多く確保することを目指す企業が多くなっています。
長距離輸送の『中継点』建設が増えている
働き方改革関連法が物流業界に適用される2024年4月以降、自動車運転業務の年間時間外労働が上限960時間に制限されるということは、トラックドライバーが1日に運転できる時間が減少してしまうということを意味します。つまり、今までは一人のドライバーで荷物を運べていたものが、労働時間の上限規制により、走行可能距離が短くなることで、運べなくなる危険が指摘されています。実際に、2024年以降は「モノが運べない時代になる」などといった懸念があがっています。
こういった問題もあり、ここ数年、長距離輸送のための中継拠点を建設する動きが出てきています。実際に、ある企業では「横浜⇔姫路」間の中継地点として、滋賀県に中継拠点を建設する動きなどが出てきています。
他にも、愛知県の企業が「中継輸送」のマッチングサイトを2022年4月1日にリリースするとしています。このサイトの目的は、以下のように解説されています。
例えば中継が必要な時は他社に敷地を借りる。使っていない時は他社に敷地を貸してあげる。ことで全国に拠点がない企業でもホテル予約サイトのように手軽に拠点を確保できます。
引用:PRTIMES「全国一斉に「中継輸送」を実現するサービス「ドラ基地」誕生」
まとめ
今回は、ここ最近、大手メディアなどでも取り上げられるようになった物流業界における2024年問題について解説してきました。簡単に言うと、トラックドライバーなどの労働時間に上限が設けられることで、1人が運べる荷物の量が減少してしまうという問題です。物流業界は、人の労働が売上に直結する業界ですし、この改正の適用がスタートすると、企業の売上減少やドライバーの低賃金化の加速など、さまざまな問題が指摘されています。
さらに、長距離輸送に関しては、中継点を設けなければ、法律に従うことができない可能性が指摘されています。そのため、ここにきて、長距離輸送の中継点の建設や、中継輸送のマッチングサービスなどが登場しているなど、各企業が2024年に向けて準備を急いでいるようです。
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