古くなった工場や倉庫の地震対策と義務化される「耐震診断」について!
投稿日:2019.08.19
更新日:2021.06.29
お役立ち情報
今回は、築年数が経過した工場や倉庫における地震対策についてご紹介します。日本は、『ものづくり大国』と呼ばれるように、昔から大小さまざまな規模の工場が運営されています。こういった工場の中には、既に築年数が数十年を超えるような建物もあり、そういった古い工場であれば、地震の揺れに対して十分な強度を持っていない可能性が指摘されています。
全国の耐震基準は、1981年6月に改正され『新耐震基準』となっています。そのため、それ以前に建設された工場や倉庫については、旧耐震基準として区別され、大きな地震が起きた時には建物が倒壊してしまう恐れもあるのです。新耐震基準と旧耐震基準の異なる点は、建物のバランスが考慮されたことで、新耐震基準では「地域による揺れの大きさの違い・建物の高さ・揺れ方の特性による影響」なども考慮されています。したがって、旧耐震基準をもとに建てられた工場や倉庫は、建物自体のバランスが悪い可能性もあるのです。
地震が発生した際、建物にどの程度の被害が出るのかは、耐震診断などを行っておく必要があり、その結果から対策が必要と考えられる場合は、最も効率的で経済的な改修を行うことが、大地震による被害を最小限に抑える方法といえるでしょう。そこで今回は、古くなってしまった工場や倉庫で考えておかなければならない地震対策をご紹介します。
Contents
建物の耐震診断について
それではまず、建物の耐震診断についてご紹介しておきます。日本は、地震大国と呼ばれるように、諸外国と比較しても地震の発生が非常に多い場所です。そのため、以下のような目的で1995年に耐震改修促進法が施行されました。
地震による建築物の倒壊等の被害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、建築物の耐震改修の促進のための措置を講ずることにより建築物の地震に対する安全性の向上を図り、もって公共の福祉の確保に資することを目的とする
さらに、2013年(平成25年)11月には改正耐震改修促進法が施行され、不特定多数の者が利用する建物や避難弱者が利用する建物のうち大規模なものには耐震診断を行うことが義務付けられたのです。
耐震診断義務化は、原則として、昭和56年5月31日以前に着工した建築物が対象となります。
建築基準法改正が昭和56年6月1日より施行され、新耐震基準なりました。それ以前に建設された建物の耐震基準は旧耐震基準に基づいて建設されました。そのため、耐震性能が劣っている可能性があるための、耐震診断が義務化されました。
ただし、この法律では、工場などにおける耐震診断は法的な義務でなく、努力義務とされているため、施設が古くなっていると理解しているものの、耐震診断は行っていないという工場や倉庫も多くあると思います。
しかし、生産や物流の拠点となる工場や倉庫は、他の建物にはない非常に重要な役割を持っています。例えば、地震により施設に大きな被害が出てしまった場合、生産や輸送に支障をきたしてしまうこととなり、多方面に多大な影響を与えることとなります。当然、損害は自社だけではなく、多くの関連企業にまで及び、一般消費者にも迷惑をかけることとなります。
古くなった工場や倉庫は、このようなことが無いよう事前に対策を講じておくことがとても重要になります。
対象となる工場
※義務付け対象は旧耐震建築物
特定既存耐震不適格建築物の要件
・工場(危険物の貯蔵場又は処理場の用途に供する建築物を除く。)
→階数3以上かつ 1,000 ㎡以上
・危険物の貯蔵場又は処理場の用途に供する建築物
→政令で定める数量以上の危険物を貯蔵又は処理するすべての建築物
指示対象となる特定既存耐震不適格建築物の要件
・工場(危険物の貯蔵場又は処理場の用途に供する建築物を除く。)
→階数3以上かつ2,000㎡以上
・危険物の貯蔵場又は処理場の用途に供する建築物
→500 ㎡以上
耐震診断義務付け対象建築物の要件
・工場(危険物の貯蔵場又は処理場の用途に供する建築物を除く。)
→階数3以上かつ 5,000 ㎡以上
・危険物の貯蔵場又は処理場の用途に供する建築物
→階数1以上かつ 5,000 ㎡以上
(敷地境界線から一定距離以内に存する建築物に限る)
建物における構造上の地震対策
一口に「建物の地震対策」といっても、さまざまな手法が存在しています。もちろん、どのような対策を行うのか?によって必要になるコストが大幅に変わりますので、一般的な地震対策の考え方を頭に入れておきましょう。
- 免震
免震は、建物と基礎の間に免震装置を設置し、地盤と建物を切り離すことによって地震の揺れを直接伝えないようにするものです。この方法は、揺れが直接伝わらないため、家具の転倒など、建物内の被害を大幅に減らすことができます。
ただし、建物の基礎や土台から作り替える必要があるため、大規模な工事となり、多大なコストがかかります。 - 制振
これは、建物にダンパーなどの制振部材を組み込むことにより、地震による揺れを吸収するというものです。主に高層ビルなどで採用されることが多いです。ただし、基本的には新築やフルリノベーション時などに採用するもので、後付けの地震対策としては難しい手法です。 - 耐震
太く頑丈な柱・梁にするなど、建物が地震の揺れに耐える構造にするものです。免震構造や制振構造と比べると、後付けも簡単で、改修費用も安くつく場合が多いです。ただし、「地震のエネルギーは直接建物に伝わり、それに耐える」という考えのものですので、上記二つと比較すると建物内部の損害は大きくなることが多いです。
古くなった工場や倉庫での地震対策
それでは、古くなってしまった工場や倉庫で、どのような地震対策ができるのかをいくつかご紹介していきましょう。
壁を増やして建物を補強する(鉄筋コンクリート造の場合)
まずは、地震対策で最も簡単で効果的と言われる手法からです。
この手法は非常に単純で、耐震性に優れたコンクリートの壁を、バランスよく配置していくだけです。これだけでも、建物の耐震性は大きく向上します。ただし、「工場や倉庫などで壁を増やす」ということは、使い勝手の悪い施設になってしまう可能性もあるため注意が必要でしょう。
建物内に壁を増やすことができない施設では、外部に控壁(バットレス)を増設することも「壁を増やして建物を補強する」工法の一つといえます。したがって、敷地に余裕がある場合には、建物内部の使い勝手を悪くしないように、他の工法と併用することも考えて、地震対策を進めると良いでしょう。
既存の柱を補強する(鉄筋コンクリート造の場合)
工場や倉庫の地震対策として、既存の柱に鋼板を巻くなどして補強する方法もオススメです。既存の柱や梁を補強することは、建物の強度や粘りを増すことにつながりますので、倒壊しにくい施設を実現し、従業員の安全も守ることができます。
ブレースを増やす(鉄骨造の場合)
既存施設の地震対策としては、鉄骨ブレースを追加する手法が多くとられます。ブレースとは、いわゆる筋交のことで、柱と梁に囲まれた面に斜めに材を渡すことで、水平荷重に耐える構造とすることが可能です。
免震構造にする
既存の建物を免震化することを「免震レトロフィット」といいます。この手法は、重要文化財に指定されている歴史的な建造物など、免震技術が無い時代に建てられたものを保存するために採用されている手法です。
既存施設を免震構造にするためには、周囲を掘り下げて基礎に手を加えることや、躯体をジャッキアップして免震装置を設置するなど、かなり大規模な改修工事となるため、多大なコストがかかるのを覚悟しなければなりません。ただし、耐震対策とは異なり、建物内部に地震の影響を伝わりにくくすることで、より安全性の高い施設を実現できます。
まとめ
今回は、築年数が経過した工場や倉庫において、頻発する地震に対してどのような対策がとれるのか?ということをご紹介しました。本稿でもご紹介したように、工場などでは耐震診断が努力義務となっているため、旧耐震基準を基に建設された施設でも、特に耐震診断を行っていないという場合も多いことでしょう。その場合、大きな地震が発生した際には、建物内で働いている従業員の命まで危険に晒してしまうこととなるため、きちんと耐震診断を行い、必要とされる対策がある場合には、早急な対応をおすすめいたします。
特に近年では、マグニチュード8から9クラスの巨大地震の発生確率が高まっていると言われています。できる部分からでも地震対策を進めて行きましょう。
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