カーボンニュートラルとは?物流業界の取り組みも紹介
投稿日:2023.05.20
更新日:2023.06.19
お役立ち情報
近年、カーボンニュートラルという言葉を耳にする機会が増えています。カーボンニュートラルの意味については、環境省が作成している脱炭素ポータルというサイト内で以下のように解説されています。
カーボンニュートラルとは
温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します
引用:脱炭素ポータルより
日本では、2020年10月、政府より2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことが宣言されており、各業界の脱炭素への取り組みが重要視されています。そこで当記事では、物流領域でのカーボンニュートラルへの取り組みなどについて解説します。
Contents
物流業界の二酸化炭素排出量について
日本では、各省庁が連携して、カーボンニュートラルの実現のために「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定しています。カーボンニュートラルは、「温室効果ガスの排出と吸収の合計をプラスマイナスゼロにする」ことなのですが、これをいきなり実現することは現実的ではありません。そのため、日本政府は、2030年時点でCO2排出量を46%削減(2013年度比)、そして2050年に吸収分も加味して100%削減しカーボンニュートラルを実現するという段階的な目標を掲げています。※1
カーボンニュートラル実現に向けた目標値は、何度も変更されています。日本の排出削減目標の推移は、外務省の公式サイト内で紹介されていますので以下をご参照ください。
参照データ:日本の排出削減目標
それでは、2050年カーボンニュートラル実現のために、物流業界での取り組みが重要視されているのはなぜなのでしょうか?これは、日本全体のCO2排出量の内、運輸部門からの排出量がかなりの領域を占めているからです。以下に、2021年度における日本の二酸化炭素排出量に関するグラフをご紹介します。
引用:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」より
上のグラフのように、日本の二酸化炭素排出量(10億6,400万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億8,500万トン)が17.4%を占めています。自動車全体では運輸部門の86.8%(日本全体の15.1%)を占めていて、さらに貨物自動車が運輸部門の39.8%を占めるという結果になっています。なお、貨物自動車は日本全体で考えても、約7%に相当するCO2排出量となっています。
引用:国土交通省「運輸部門における二酸化炭素排出量」より
貨物自動車によるCO2排出量は1996年をピークに、減少傾向を続けています。なお、2020年から2021年にかけては、一時的に増加していますが、これは、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復などがあり、前年度比で輸送量が急増したことが要因と考えられています。
物流領域でのCO2排出量は、30年をかけて約30%減少しています。この改善は、トラックの大型化や燃費改善など、トラックメーカー側の努力改善によるものが大きいと考えられています。現在でも、トラックメーカーなどでは、ハイブリットトラックやEVトラック、燃料電池トラックなど、次世代自動車の活用による燃費改善など、カーボンニュートラル実現に向けた開発が行われています。しかし、2030年までの目標である、「交通・物流(運輸部門)は、2030年度において二酸化炭素排出量対2013年度比35%削減」や2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、トラック利用者側の取り組みが必要不可欠とされています。
国土交通省では、運輸部門におけるカーボンニュートラル実現への取り組みとして、以下のような方針を示しています。
運輸部門における二酸化炭素排出量の約86%を占める自動車における二酸化炭素排出量の削減を図るため、次世代自動車の普及促進に向け、燃費規制の活用や導入支援、インフラ整備を図るとともに、交通流の円滑化に向けて、ICT技術を活用したソフト対策、渋滞対策に資するハード対策の両面からの取組みの強化を図るとともに、二酸化炭素排出原単位の小さい輸送手段への転換として、公共交通の利用促進や、トラック輸送の効率化、海運や鉄道へのモーダルシフトの更なる推進を図る必要がある。
引用:国土交通白書 2022
カーボンニュートラル実現に向けた具体的な取り組みについて
カーボンニュートラルの実現に向けて、企業単位で出来る取り組みにはさまざまな手法があります。ここでは、具体的な取り組みをいくつかご紹介します。
再生可能エネルギーへの転換
カーボンニュートラル実現に向けての取り組みの中で、真っ先に思い浮かぶのが再生可能エネルギーの利用という方が多いのではないでしょうか。
火力発電は、石炭や石油、天然ガスなどを燃やして電力を作る仕組み上、発電時に大量のCO2が排出されます。したがって、CO2排出量削減のためには、火力発電から再生可能エネルギーへの転換が求められています。
物流企業の取り組みとしては、倉庫の屋根に太陽光発電設備を設置し、施設の運用に必要な電力を自家発電した電気で賄うといった取り組みが増えています。なお、再生可能エネルギーにも、太陽光発電以外に、風力や地熱、バイオマスなどさまざまな種類があります。
省エネ設備の導入
一般住宅などと比較すると、施設規模が大きくなる倉庫や工場では、省エネ性の高い設備の導入と言った対策も進んでいます。省エネ設備の導入は、消費電力量が削減でき、CO2排出量の削減につながります。
物流での取り組み
環境省が提示している「地球温暖化対策計画」の中には、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、2030年度までに運輸部門が対応すべき目標と具体的な取り組みが記載されています。以下で簡単にまとめます。
- 次世代自動車の普及、燃費改善
- 道路交通流対策
- 環境に配慮した自動車使用等の促進による自動車運送事業等のグリーン化
- トラック輸送の効率化、共同輸配送の推進
- 海上輸送及び鉄道貨物輸送へのモーダルシフトの推進
- 物流施設の脱炭素化の推進
さらに、経済産業省による「第6次エネルギー基本計画」の中でも、物流業界に求められるカーボンニュートラル実現に向けた取り組みとして、以下の対策が紹介されています。
- 電動車・インフラの導入拡大
- AI・IoT等の技術を活用したサプライチェーン全体での大規模な物流効率化
- 省力化を通じたエネルギー効率向上
- モーダルシフトや、共同輸配送、輸送網の集約
- 倉庫や港湾ターミナル等における省エネルギー化
- 省人化機器や再生可能エネルギー設備、燃料電池等の導入により、物流施設のゼロエネルギー化 など
運輸部門は、他部門に比べてCO2削減の取り組みが遅れているという指摘もあるなど、2050年カーボンニュートラルの実現には、物流業界全体が同じ方向を向いてさまざまな対策に取り組む必要があるようです。「地球温暖化対策計画」と「第6次エネルギー基本計画」では、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた政府の考えなども記載されています。
参照:地球温暖化対策計画
参照:第6次エネルギー基本計画
実際の取り組み事例について
それでは最後に、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、物流関連企業の実際の取り組み事例をいくつかご紹介しておきます。
豊田通商株式会社「輸送時の排出量削減支援」
出発地点と目的地を選択するだけで輸送時のCO₂排出量を算定するシステムや、輸配送業務のデジタル化によりCO₂排出量の見える化をおこない、輸配送の最適化を支援するシステムなど、物流のDX化を推し進めることで、「2030年に2019年比50%削減、2050年にカーボンニュートラル」を目指しているとのことです。
ヤマト運輸株式会社「海上輸送を活用したモーダルシフトを促進」
ヤマト運輸では、2021年7⽉より関東―九州間のトラック長距離輸送の一部を、フェリーによる海上輸送を活用したモーダルシフトを開始しています。従来は、トラックによる輸送を行っていた部分を、横須賀港(神奈川県)から新⾨司港(福岡県)間でフェリー輸送を開始することで、輸送における温室効果ガス排出量を年間約1,400トン(約66%)削減することができたと発表しています。
関連記事:共同物流とは?3つの区分やメリット・デメリット導入時の注意点まで紹介
まとめ
今回は、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、物流業界に求められているCO2排出量削減のための取り組みなどをご紹介しました。この記事でご紹介したように、日本の部門別二酸化炭素(CO2)排出量のうち、運輸部門が20%近くを占めていることから、物流業界でのCO2削減のための努力がカーボンニュートラル達成に大きな影響を及ぼすと考えられています。
近年では、物流施設で消費する電力を再生可能エネルギーに転換することや、次世代自動車の導入による燃費改善、積載率向上やモーダルシフト(鉄道・船舶)の推進など、CO2排出量削減のための取り組みが加速しています。物流領域における脱炭素の取り組みは、サプライチェーン全体を巻き込む必要があるなど、まだまだ課題も多いですが、2050年カーボンニュートラル実現には、物流業界での取り組みがより一層重要になると考えられます。
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