コールドチェーン(低温物流)の仕組みや必要性を解説
投稿日:2022.11.25
更新日:2024.08.26
お役立ち情報
日常生活において、スーパーやコンビニなどで冷凍食品や鮮度の高い食品を手軽に購入できるのはもはや当たり前になっています。また、外食チェーン店などでも、冷凍食品やフレッシュな生鮮食品を利用することで、低価格でハイクオリティな料理が提供されています。
それでは、なぜこれらの食品は品質を保ったまま、日本全国のスーパーやコンビニ、飲食店などに配送できるようになったのでしょうか?
商品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れを「サプライチェーン」と呼びますが、このサプライチェーンの全工程を低温かつ最適な温度管理で保つ仕組みが『コールドチェーン』です。普段私たちが、手軽に冷凍食品や鮮度の高い食品を購入できるのは、コールドチェーンの発展と普及が大きく寄与しています。
そこで当記事では、現代人の日常生活を支えている『コールドチェーン』の詳細について解説します。
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Contents
コールドチェーン(低温物流)とは
物流の技術は、年々進化を続けており、中でも特に注目を集めているのが『コールドチェーン』です。コールドチェーンは、食品や医薬品など、品質を保つために温度管理が必要な商品を、生産から消費されるまで、一貫して低温かつ最適な温度管理状態に保つ物流のことです。「コールド(cold)」は低温を意味しており、冷蔵や冷凍と言った所定の温度帯を維持したまま、生産や輸送、保管と言った流通プロセスを「鎖」のように繋げていく仕組みから『コールドチェーン』と呼ばれます。ちなみに、日本語では『低温物流体系』などと訳されます。
コールドチェーンの主な目的は、「低温状態に保つことで商品の品質を維持する」ことです。コールドチェーンの登場によって、これまでの常温物流では不可能であった、広範囲への輸送や保存期間の長期化などが可能になりました。コールドチェーンでは、各流通プロセスをたどる上で、一貫した温度管理がなされていることが前提となっているため、サプライチェーン上で一箇所でも適切な温度管理がなされなかった場合、商品の品質を維持することはできません。したがって、サプライチェーンの全ての工程で、徹底した温度管理を行うことがコールドチェーンの重要なポイントとなります。
流通プロセスの全工程において、低温かつ最適な温度管理がなされるコールドチェーンは、冷凍食品や生鮮食品の輸送だけでなく、医薬品や輸血パック、電子部品など、さまざまな分野で活用されるようになっており、私たちに日常生活に欠かせない技術になっています。
コールドチェーンの必要性とは?
コールドチェーンは、生産地から消費地まで、一貫して低温状態を維持したまま届ける仕組みです。それでは、消費者の手元に届くまでの一部の工程で、一定の温度が保たれなかった場合、どうなるのでしょうか?
ここでは、コールドチェーンが活躍する食品物流や医薬品物流を参考に、コールドチェーンの必要性について解説します。
食品物流におけるコールドチェーン
肉や魚、野菜などの生鮮食品の流通では、コールドチェーンの仕組みが必要不可欠になっています。生鮮食品の流通では、「鮮度維持期間をできるだけ長く保つ」「品質を向上させる」「安全性を高める」などと言った部分をコールドチェーンが下支えしています。仮に、コールドチェーンの仕組みが存在せず、常温での物流となった場合、スーパーや飲食店などに届くまでに、食品の味や品質が落ちてしまい、商品としてはとても成り立たなくなる可能性が高いです。
常温物流では、鮮度を維持できる時間が短くなりますので、一定の狭い範囲にしか商品を届けることができなくなるでしょう。また、保存可能時間も短くなるので、流通段階での食品廃棄が多くなって食品ロスが増大すると考えられます。これらのことからも、生鮮食品の広範囲に向けた安定供給には、コールドチェーンが必要不可欠だと言えます。
更に近年では、日本国内の食品関連事業者については、HACCP基準の衛生管理が義務化されたことで食品物流におけるコールドチェーンの必要性がさらに高まっています。
HACCPとは、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。
引用:厚生労働省サイトより
HACCPの義務化により、日本国内の食品関連事業者では、食品の製造加工段階において、徹底した衛生管理を行うとともに、低温での保管・輸送が重要視されるようになっています。
低温倉庫について詳しくはこちらの記事をご覧ください:4温度帯とは?医薬品・医療機器・治験薬の物流に必須の低温倉庫
医薬品物流におけるコールドチェーン
食品物流と並んで、コールドチェーンが重要視されているのが医薬品物流です。新型コロナウイルスワクチンの輸送を思い出していただければわかりやすいのですが、ワクチンの中には、保存期間が短く、非常に厳しい温度要件を持つものが多いので、サプライチェーン全体を通じて厳しい温度管理が求められます。
この他にも、血液製剤などは、品質を保つために「2~8度の低温を維持する」という条件があり、サプライチェーンの中でこの温度帯を1度でも逸脱する工程があれば、原則として廃棄処分にしなければならないという厳しい決まりが設けられています。
コールドチェーンの仕組みは、人の命を扱う医療現場でも、非常に重要な要素の一つとみなされるようになっています。
コールドチェーンのメリット
コールドチェーンが存在することで、以下のようなメリットが得られていると考えられます。
- 食品廃棄(食品ロス)の削減
コールドチェーンの登場は、食品の品質を長期的に維持することができるようになることから、食品ロスの大幅な削減につながります。例えば、食品を常温で管理した場合、低温での管理と比べると、品質の劣化が早まるため販売可能な期間が短くなります。スーパーなどで販売される総菜などは、1日程度の販売期間で、売れなければ廃棄になるので、それだけ無駄が生じてしまいます。これが、冷凍食品になると、賞味期限が数カ月以上になるので、その分だけ販売する期間が長くなり、食品廃棄を削減できます。 - 広域輸送が可能に
コールドチェーンは、一貫した低温管理によって商品の品質を長期間維持することができます。そのため、今までは品質維持の観点から遠方への輸送が困難であった商品を全国各地へ輸送できることになったのが大きなメリットです。販売者側にとっては販路拡大につながりますし、消費者にとっても遠隔地にわざわざ行かなくても気軽に購入できるようになりますので、両者にとって非常にありがたい仕組みになります。
コールドチェーンのメリット・デメリット
上述した内容を踏まえ、ここではコールドチェーンのメリットとデメリットについてまとめていきます。
メリット
1.品質維持:
冷凍や冷蔵など、適切な温度での保管や輸送ができるため、商品の品質を維持することができます。例えば、食品では鮮度や栄養価を保ち、医薬品では有効成分の劣化を防ぎます。
2.安全性向上:
食品などの場合、品質が損なわれると、食中毒や健康被害の原因となることがあります。コールドチェーンを使用することで、安全性を高めることができます。
3.市場拡大:
コールドチェーンを利用することで、遠隔地にある市場に商品を届けることができ、市場の拡大につながります。
4.ロス削減:
品質が損なわれないように温度管理を徹底できるため、ロスを削減することができます。
デメリット
1.コストが高くなる:
コールドチェーンの設備や運用には高いコストがかかります。また、冷凍や冷蔵に必要な電気代もコストに影響を与えます。
2.時間がかかる:
コールドチェーンに必要な保冷保温の作業や、品質管理のための検査など、物流に時間がかかることがあります。
3.人的ミスの発生:
コールドチェーンの運用には、熟練したスタッフが必要であり、作業ミスが発生することがあります。
4.リスクについての検討:
温度管理が必要な商品の輸送や保管には、許容範囲外の温度変化が発生することがあり、品質に影響を与えるリスクがあります。
コールドチェーンを運用する上では、それぞれのリスクを正しく評価し、最適な運用方法を検討することが重要です。
コールドチェーンの流れについて
コールドチェーンは、「生産・加工→流通→消費」のプロセスで進行していきます。ここでは、食品物流を参考に、コールドチェーンのシステムを簡単にご紹介します。
生産・加工
コールドチェーンにおいて、最初に実施する作業は、鮮度を維持するための低温処理です。なお、同じ食品でも、青果と肉類ではその処理方法は異なります。
野菜や果物などの青果の場合、コールドチェーンで最初に行われるのは「予冷」と呼ばれる作業です。予冷は、商品を出荷する前に低温状態にする処理のことで、予冷をすることで商品を高品質状態で保ちやすくなるとされています。予冷が行われた青果については、『予冷した商品に対応した特別な冷蔵庫』で保管されます。
肉や魚などの生鮮食品の場合、青果とは異なり最初に「冷凍」処理が行われます。ただ、肉や魚は、時間をかけて冷凍すると、その過程で細胞が破壊され大幅に品質が低下してしまいます。そのため、品質を維持したまま冷凍するために、急速冷凍機を使用して冷凍するのが一般的です。
コールドチェーンは、常温倉庫の運用と比較した場合、一つ一つのプロセスで特殊な機械(急速冷凍機など)を用意する必要があることから、コストが高くなりすいです。
流通
「流通」は、生産した工場などから消費者の手元に届けるまでのプロセスです。なお、このプロセスは、コールドチェーンの中でも商品の品質に大きな影響を与えやすいことから、特に重要とみなされています。
配送が長時間にわたる遠方への輸送では、中継点となる倉庫を利用するケースがあるのですが、その場合は、配送している商品の保管温度帯に対応した倉庫を利用する必要があります。したがって、常温輸送と比較すると、配送ルートが限られる可能性があるため、あらかじめ最適な配送ルートを検討しなければいけません。
コールドチェーンの流通プロセスについて、この技術が登場したばかりのころは、常温での流通と比較すると、非常に高額なコストを要することが難点だとされていました。しかし現在では、さまざまな工夫が重ねられたことから、大幅なコストダウンが図られており、配送方法によっては、常温輸送と比較しても、飛びぬけて高額なコストがかかるケースは少なくなっています。
消費
コールドチェーンの最後のプロセスが「消費」です。このプロセスは、本来の品質を維持した状態で、消費者の手元に商品が届いた後のことですので、「後はユーザー側の管理の問題では?」と考えてしまうかもしれません。しかし、ユーザーが手元に届いた商品をすぐに消費するとは限りません。それどころか、手元に届いた商品を冷蔵庫や冷凍庫で一定期間保管するケースの方が多いと考えられます。したがって、コールドチェーンでは、ユーザーの手元に届いてから、実際に消費されるまでに一定の時間がかかると想定しており、「商品を届けた時点でゴール」ではなく、「ユーザーのもとに商品が届いた後も保管しやすく、劣化しにくい状態」を作り出すことが重要視されています。
例えば、商品パッケージの形状について、「できるだけ冷凍保管しやすい」という工夫がなされていたり、冷蔵庫や冷凍庫で一定期間保管されていても傷みにくい加工が施されていたりします。この他にも、家庭用冷蔵・冷凍庫での保管方法を商品パッケージに記載するなどと言った工夫がなされている場合も多いです。
コールドチェーンの課題について
食品や医薬品物流に欠かせないコールドチェーンですが、いくつかの課題が指摘されていますので、以下でご紹介します。
コストの問題
一つ目の課題は、常温物流と比較した場合、コールドチェーンを構成する各事業者のコスト負担が大きいという問題です。コールドチェーンでは、各工程で特殊な機械・設備の導入が必要となりますので、設備導入時のイニシャルコストや維持管理のためのランニングコストが常温物流よりもかかってしまいます。
例えば、低温での保管を実現する冷蔵倉庫は、常温倉庫と比較すると倍以上の建設コストになる場合もあります。また、倉庫の運用面でも、温度管理ミスなどが起きないよう専門知識を有する人材を確保しなければならないことから、人件費なども嵩んでしまいます。
コールドチェーンでは、商品ごとに適した温度帯が異なることから、それぞれの商品特性に合わせた機能を整備しなければいけません。さらに整備しなければならない機能の幅が非常に広いことから、コスト負担が増大してしまうという課題があります。
冷蔵倉庫が不足している
ここまでの解説で分かるように、コールドチェーンは、サプライチェーンの全工程を低温かつ最適な温度管理で保つ仕組みです。したがって、コールドチェーンを構成するためには、冷蔵倉庫が必須です。
しかし、現状を考えてみると、都市部、地方部を問わず、冷蔵倉庫の保管スペースのひっ迫が深刻化しています。特に、新型コロナウイルス問題発生以降、家庭用冷凍食品やチルド食品の需要増加もあり、冷蔵倉庫の保管スペースのひっ迫状況はさらに拍車がかかっているとされています。
また、日本国内に存在する冷蔵倉庫に関しては、築年数が経過して、老朽化した冷蔵倉庫が多いものの、建て替えがなかなか進まないことも課題とされています。
コールドチェーンという仕組みを維持していくためには、冷蔵倉庫が欠かせない重要なピースなのですが、倉庫需要の増加や冷蔵倉庫そのものの老朽化などによる倉庫スペース不足は、早急に解決しなければならない課題となっています。
まとめ
今回は、我々の日常生活を陰から支えてくれているコールドチェーンについて、その仕組みや必要性などを解説しました。
コールドチェーンの登場は、食品の長期保存が可能になったことで食品ロスが大幅に削減されたことや、医薬品の長距離輸送が可能になったことで、多くのメリットをもたらせてくれています。実際に、毎日の食生活を考えてみると、スーパーやコンビニなどで販売されている冷凍食品を手に取る機会が非常に多くなったのではないでしょうか?
ただ、さまざまなメリットをもたらせてくれるコールドチェーンですが、多大なコストがかかってしまう、運用に高度なスキルが必要になるなど、いくつかの課題は存在します。
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